むかしむかし、あるところに寂れたお寺がありました。

普段は誰も寄り付かないような寺でして、お坊様も住んでいない空き寺でした。

そんな、お寺の一角に手水鉢がありました。

小さいな手水鉢でしたが、そこに1匹の金色に輝くメダカが棲んでいました。

小さい手水鉢でしたが、どんなに晴れが続いて雨が降らなくても水は一杯で

メダカはとても気持ちよさそうに泳いでいました。

手水鉢

そんな空き寺でしたが、、近くに住んでいる「喜助」という男が、時折やってきてはせっせと寺やお墓の掃除をしていました。

空き寺でも、寺は寺。神聖な場所であるお寺が汚れるのが見ていられない性格なのでした。

「喜助」は手水鉢にいるメダカを眺めながら、掃除をするというのが日課となっていました。

春夏秋、そして雪が降る冬は、暖かい日を選んでお寺やお墓の掃除をしておりました。

手水鉢を見るとメダカは一年中、気持ちよさそうに泳いでいました。

そして、メダカは死ぬことはありませんでした。

ある時、名高いお侍一行が、この寺に通りかかりました。

お寺に入り、休憩しようとして、呼びかけましたが、誰も返事がありません。

お侍様は『ここは空き寺のようだな。』と休憩することにしました。

お寺を散策していると、手水鉢にメダカが泳いでいるのが目に入りました。

お侍様は『この魚はたしか...メダカという魚だったな。金色に輝いていて綺麗な魚だな。』

『ぜひ、綺麗な魚を持って帰りたい。』と思い、柄杓でメダカをすくおうとしました。

しかしながら、メダカを何度すくおうとしても、メダカをすくうことはできませんでした。

『何と!』

そこに「喜助」がやってきて『お侍様。そのメダカをすくうことはできません。』

『そなた!何者じゃ!』

『すぐそこの村に住んでおります「喜助」という者でございます。たまに、この寺の掃除をしております。』

『「喜助」とやら。このメダカがすくえないとはどうしてじゃ?』

「喜助」は『このメダカは、この世のものではありません。いくらすくってもすくうことはできません。』

『このメダカは、以前、この寺の池にいたのですが、池で溺れて亡くなった子供がでたことで、村の者が池を埋めてしまったのです。』

『池を埋めたとたん、この辺りは雨があまり降らなくなりまして、不作が続いております。』

『それは如何な。我はこの辺りをこれから治めるためにきた領主となる身である。農作物が不作では困る。』

「喜助」は『池を掘り返しておりますが、何せ一人でしておりますので、元通りにはしばらくかかります。』

『そなたは、池を元通りにすれば、再び雨が降ると思うのか?』

「喜助」は『元に戻ります。お約束いたします。』

お侍様は『よし!それでは池を掘り起こそうではないか。「喜助」やら。雨が降らなかったら、ただではおかんぞ!』

お侍様は、家来たちに命じて、近隣の農家から道具を借りてきて、池を掘り起こしました。

沢山の家来たちによって、池は瞬く間に掘り返されて以前の池に戻りました。

お侍様は『池に水を入れないといけないな。』

「喜助」は『お侍様、必要ありません。』というと、柄杓で手水鉢にいるメダカをすくうと、なんと!メダカはすんなり柄杓に入ったのです。

そしてメダカを水のない池に入れました、すると池はみるみるうちに水で一杯になりました。

水の入った池の中で金色に輝くメダカはすぅーっと消えてしまいました。

喜助は『この池は、いずれメダカが増えていきます。お侍様、ありがとうございます。』

その時、辺りは暗くなり、雨が降り始めました。

お侍様は『「喜助」とやら。お主がいったことが正しかったようじゃ。』と「喜助」のほうを向くと「喜助」の姿はどこにもありませんでした。

後日、お侍様が再びお寺を訪ねると、お寺の池には沢山のメダカが泳いでおり、綺麗な睡蓮の花が咲いておりました。

「喜助」の姿はなく、近くの農村を訪ねて「喜助」を探すと、

『お侍様。喜助ですか..。この辺りに喜助という者は住んでおりません。』

『そう言えば、以前、池に溺れて亡くなった子供が「喜助」って子だったような。』

『自分のせいで池を埋めてしまったことで、あの世にいけなかったのだな。』とお侍様は遠くに見えるお寺を見て呟きました(終)。



※最後に
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